【犬の去勢】去勢で癌になりやすいって本当?後悔しないためにメリットとデメリット解説します。

ゴールデンレトリバー
ヒガシクマくん

キタクマ先生!去勢すると癌(ガン)になりやすいって聞いたんですけど、本当ですか!?

キタクマ先生

とてもびっくりするような内容ですよね。それはアメリカで行われた、疫学研究の論文データからきている情報ですね。

ヒガシクマくん

そしたら、去勢なんてしないほうがいいに決まってますね!

キタクマ先生

必ずしもそうではなく、去勢をすると寿命が伸びるというデータがあります。寿命が伸びたため、癌(ガン)にかかりやすくなっている可能性もあるので、去勢が直接的に癌の進行と関係しているとは限らないんです。

こんな会話を、最近飼い主様としました。

どっから聞いたのか、去勢(避妊手術)をするとがんになりやすいという話を聞いたというのです。

確かにこれはウソ情報ではなく、研究機関で出されたデータから導かれた結論です。

アメリカで実施されている疫学研究(病気の因果関係を調べるための研究)のデータから

避妊手術を実施した犬の集団において、避妊手術を実施しなかった集団と比較すると、特定の癌(ガン)の発生リスクが上昇していた。

という結果が得られています。

去勢手術とは、精巣を摘出する男の子で行われる、避妊手術です。

望まない妊娠を予防して、不幸な命を作らないためには必要な処置と言えます。

ですが、デメリットの部分が研究によって少しずつ見え始めています。

多頭飼育でないのであれば、去勢をすることは義務ではなく、必ずやった方がいいということでもありません。

去勢にはメリットとデメリット両方あります。

その両方をしっかりと理解して、しっかりと悩んでもらってから、実施するべき手術だと思っています。

この記事では、去勢と癌の関係を主題にしつつ、去勢について詳しく説明していきます。

この記事を読むメリット

  • 漠然と手術をやらない選択をするのではなく、効果とデメリットを比較した上で、決定できます
  • 獣医さんの言うまま行うのではなく、対等に相談できる知識が付きます
目次

去勢と癌の関係について

避妊手術を実施することで、特定の癌のリスクが増加していた

この情報はウソの情報などではなく、きちんとした疫学研究から得られたものです。

獣医学の腫瘍の教科書には、すでにこういう記載があります。

・去勢手術は、前立腺癌の進行に有利に働いていると考えられる

・12ヶ月未満で避妊手術をした犬では、骨肉腫(骨の癌)になるリスクが高買った

・去勢手術を実施した雄犬は、去勢していない犬と比べてリンパ腫(血液の癌)になるリスクが上昇した

・去勢手術によって肥満細胞腫(皮膚の癌)のリスクが上昇した

SMALL ANIMAL Clinical Oncology SIXTH EDITION

教科書だけでなく、避妊手術と癌(ガン)に関する論文も、多く世に出されています。

去勢手術をおこなっている犬の方が、去勢をしていない犬に比べて、特定の癌になる割合が多かった

一部の癌とは、リンパ腫、血管肉腫、骨肉腫、膀胱移行上皮癌、前立腺癌といった癌を指す

The role of neutering in cancer development Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2014 Sep;44(5):965-75.

日本でもたくさん飼われている、ゴールデンレトリバーについての論文もあります。

ゴールデンレトリバーでは、早期去勢手術(1歳未満に実施)で、リンパ腫の発生割合が増加した

Neutering Dogs: Effects on Joint Disorders and Cancers in Golden Retrievers journal.pone.0055937. Epub 2013 Feb 13.

上記以外にも、たくさんのガンのリスク上昇についての論文が存在しています。

しかし、去勢でリスクが上昇している原因は、まだわかっていないため、

今後さらなる研究が必要と書いてあることがほとんどです。

また、癌(ガン)のリスク因子には、「高齢化』も大きく関わっています。

2000匹の犬の解剖症例についての研究で、5歳未満の癌による死亡率は20%だったのに対し、10〜16歳の高齢犬では40〜50%に増加した

Variation in age at death of dogs of different sexes and breeds Vet Clin North Am Small Anim Pract . 2014 Sep;44(5):965-75

この高齢化というリスク因子は、去勢による寿命延長と関わっています。

つまり話をまとめると、

去勢によって癌(ガン)になるのではなく、寿命が伸びて高齢化したことにより、癌になる犬が多くなってきていると言うこともできそうです。

まとめ

避妊手術を受けていない犬に比べて、避妊手術を受けた犬の方が、癌にかかっている割合は多い(リスクが高い)と言うデータ上の事実はあるが、去勢による癌になりやすいメカニズムはまだわかっていないし、単に寿命が伸びたから癌にかかりやすくなっている可能性もあるということから、今後さらなる追加研究を期待したい

避妊手術によりリスクが上昇する他の病気もある

癌(ガン)以外でも、去勢した犬の集団では、免疫に関係した病気の発生リスクが高まったという報告もあります。

アメリカのカリフォルニア大学の動物病院に来院した、90090頭の調査で、

避妊手術をおこなった犬では、避妊していない犬と比べて、

自己免疫疾患にかかるリスクが高くなっていた

Gonadectomy effects on the risk of immune disorders in the dog: a retrospective study BMC Vet Res. 2016 Dec 8;12(1):278.

自己免疫疾患とは、自分自身を守る免疫細胞が、自身の細胞に対して攻撃をおこなう病気の総称で、数多くの自己免疫疾患があります。


この論文の中で、リスクが高かった自己免疫疾患として、

  • アトピー性皮膚炎、
  • 免疫介在性溶血性貧血、
  • 免疫介在性血小板減少症、
  • 重症筋無力症、
  • 甲状腺機能低下症、
  • 副腎皮質機能低下症

などが挙げられています。

この中でも比較的多く来院される病気が、アトピー性皮膚炎です。

アトピー性皮膚炎とそのリスク因子についてまとめられた論文の中に、興味深いデータがあります。

アトピーのリスク因子は

男の子であること

避妊(去勢)されていること

・都市部に住んでいること

・布張りの家具がある

Environmental risk factors for canine atopic dermatitis: a retrospective large-scale study in Labrador and golden retrievers Vet Dermatol. 2019 Oct;30(5):396-e119.

この論文はゴールデンレトリバーとラブラドールレトリバーの犬を研究対象にしています。

その中で、男の子で去勢されている犬では、アトピー性皮膚炎になりやすいと言うことになります。

ちなみにゴールデンレトリバーとラブラドールレトリバーはアトピー性皮膚炎が多い犬種でもあります。

このことから、アトピー性皮膚炎にかかりやすい犬種は、去勢を控えるべきなのか、今後議論されていくことになりそうです。

アトピー性皮膚炎になりやすい犬種

  • 柴犬
  • ゴールデンレトリバー
  • ラブラドールレトリバー
  • フレンチブルドック

またゴールデンレトリバーと避妊手術に関する論文では、

去勢手術を受けたゴールデンレトリバーは前十字靭帯断裂股関節形成不全の発生割合が、手術を受けていない場合と比べて発生割合が多くなっていた。ただし増加していたのは、1歳未満に去勢を行ったゴールデンレトリバーだけで、1歳を過ぎてから去勢を行ったゴールデンレトリバーでは、発生割合の増加は見られなかった

Neutering Dogs: Effects on Joint Disorders and Cancers in Golden Retrievers journal.pone.0055937. Epub 2013 Feb 13.

ゴールデンレトリバーで、1歳未満に去勢を行った場合に整形疾患である、前十字靭帯の断裂や股関節形成不全といった整形疾患にかかりやすいというのは、初めて見た時は驚きました。

ともに手術が必要な病気であり、コストもかなり高くなリます。

ゴールデンレトリバー以外の大型犬ではどうなのかが気になりますが、症例数が多い大型犬がゴールデンレトリバーなので、研究対象になることが多いのでしょう。

いずれにせよ、ゴールデンレトリバーという犬種では、癌だけでなく、皮膚の病気や整形の病気にもなりやすいとのことであるので、1歳未満の去勢というのは、おすすめできないなと思います。

去勢手術の概要

ここからは、去勢を受けるための必要な知識をお伝えしたいと思います。

去勢手術における手術時間と傷口の程度

去勢手術とは、ご存知だと思いますが、精巣を摘出する手術です。

手術時間はどんなに遅くても30分、ベテランの獣医師がやると15分もかからないと思います。

どこを切るかというと、おちんちんの終わりと陰嚢(たまたま袋)の間です。

傷口の大きさは犬種、体格によって差はありますが、精巣のサイズが切開の大きさとなります。

  • 小型犬 1〜2cm
  • 中型犬2〜3cm
  • 大型犬 3〜5cm

精巣を取り出したら、精巣につながっている血管を、糸で縛ってから切断し摘出します。

傷口を3~4糸縫って、終わりです。

おそらく、ほとんどの獣医さんが一番おこなっている手術だと思います。(特別な専門医は除きます)

去勢手術の実施するのに適した時期

一般的には5~6ヶ月齢と言われています。

海外では、保護シェルターにいる犬と猫に対して、譲渡する前に避妊されている必要がある場合に3−4ヶ月ほどで実施されていますが、大きな問題にはならないと言われています。

実際に避妊手術を、3ヶ月、6ヶ月、性成熟を終えた10〜13ヶ月で実施したグループに分けたときに、大きな合併症や、性成熟の遅れによる有害事象は認められなかったと言われています。

しかし、子犬のワクチン接種が生後2か月から始まり、1ヶ月ごとに3回の投与が必要なため、接種が終わって安定する時期が5ヶ月ごろとなります。手術に関してはたくさんの動物がいる病院に行かなくてはいけません。その観点からすると、ワクチン接種が終わって安定している生後5−6ヶ月が安全でしょう。

また、乳歯の生え替わりが遅い子が特に小型犬で多いのですが、5ヶ月齢で実施するとまだ抜けてない場合や、大人の歯が生えていない子もいるため、生後7ヶ月まで待って実施することも多いです。

もし生後7ヶ月まで乳歯が残っていた場合は、自然に抜ける可能性はなく、乳歯は大人の歯に干渉してしまい生え方に影響を与える場合と、大人の歯との間に歯垢が溜まりやすいため、手術実施中に抜いてしまうことをお勧めしています

しかし前半で書いてあるように、ゴールデンレトリバーという犬種において、早期去勢手術(1歳未満の実施)で、各種病気にかかるリスクが上昇していることから、去勢が必要な場合には、1歳を超えてから実施する方がいいのかもしれません

著者(キタクマ)が考えるに、去勢に関してですが、早い時期に実施する必要性はそこまでないと感じています。

多頭飼育をしていて、望まない妊娠を避けるため、縄張り争いを避けるために攻撃性を抑えたい

こういった明確な理由がない限りは、焦って実施する必要はないかなと考えています。

去勢手術のメリットとは

去勢手術で寿命がのばせる

避妊手術を実施した犬と猫を、未避妊の犬猫と比較した研究があります。

それによると、避妊手術をおこなった犬と猫の寿命が伸びているというデータが出ています。( 米国でのデータです)

男の子の場合では、去勢(精巣摘出した)済みの子は1.14倍寿命が伸びた

女の子の場合では、避妊済みの子は1.26倍寿命が伸びた。

Reproductive capability is associated with lifespan and cause of death in companion dogs PLoS One. 2013 Apr 17
この論文からのデータを引用しています

1.1倍とか、1.2倍など、数字で見ると少ないように感じますが、

例えば、平均寿命が8歳の場合に、9歳1ヶ月まで寿命が伸びる計算になります。

犬の1年は、人の5〜7年に相当しますので、これは大きな効果とも言えますよね。

病気の予防ができる

冒頭では癌との関係性というショッキングなデータを記載していますが、

逆に減らすことができる病気もあります。

精巣の癌

セルトリ細胞腫と言われる悪性腫瘍があり、放置してしまうと他の内臓に転移してしまい、最悪命を落とします。またがん細胞から分泌されるエストロゲンというホルモンのために、貧血や免疫力の低下のために、命を落として今う可能性のある病気です。

会陰(えいん)ヘルニア

未去勢の場合に前立腺が肥大し、前立腺からのホルモン分泌のせいで肛門周りの筋肉が緩んでしまう可能性が考えられています。。全てのわんちゃんに起こるわけではないですが、その緩んだ筋肉の隙間から、大腸や膀胱(ぼうこう)が肛門横の皮膚の下に飛び出してしまう病気です。うんちがとても出しづらくなります。一度飛び出してしまうと、手術で飛び出した内臓を戻して、筋肉同士を塞ぐ必要があります。

肛門の良性腫瘍【肛門周囲腺腫(こうもんしゅういせんしゅ)】

肛門の粘膜にある、分泌腺が男性ホルモンの影響で腫瘍化(しゅようか)してしまう病気です。良性ですので転移して命を奪うことはありませんが、出血や化膿したりすることで生活の質を落としてしまいます。ただし、腫瘍ができてしまった場合でも、精巣を摘出すれば良くなることが多いです。

前立腺の良性肥大

人間にもある男性特有の分泌腺ですが、男性ホルモンの影響で、加齢と共に大きくなる(肥大する)ことがあります。それに伴い、うんちが出しづらくなったり、前立腺の構造に変化が起きて、おしっこに血液が混じったりすることがあります。精巣を摘出することで、改善していきます。

Gonadectomy in cats and dogs: a review of risks and benefits Reprod Domest Anim. 2009 Jul;
Relaxin of prostatic origin might be linked to perineal hernia formation in dogs Ann N Y Acad Sci. 2005 May;
この論文から一部引用しています

これらの病気の中で厄介な病気が会陰ヘルニアですね。

精巣の腫瘍や前立腺や肛門の腫瘍などは、診断後でも精巣を摘出する、すなわち去勢すれば完治する可能性が高い病気です。

しかし会陰ヘルニアは診断された後から、去勢をしただけでは治りません。

筋肉が緩んでしまっているため、筋肉同士を縫う必要があり、これは外科医の腕に大きく関わっています。

担当している獣医さんが外科を得意としていない場合には、別の病院にセカンドオピニオンや転院をしてもらうことも大事だと思います。

不幸な命を減らす

去勢手術の一番大事な部分だと思います。

メリットというか一番大事な目的です。

捨てられた犬と猫の殺処分は年々減少傾向にあります。

しかしそれでも、年間4000頭近くの犬がいまだに殺処分されています。

その中で増え過ぎてしまって、飼いきれなくて捨てられてしまったりする命もいるはずです。

そのようなことにならないためにも、

多頭飼育している場合には、必ず考慮するべきだと思います。

問題行動が減る

男性ホルモンの分泌を減らすことで、攻撃性を減らすことができるため、犬同士の喧嘩を減らすことができます。

ただし落ち着きがない、吠えてしまう、マウンティングといった行動を100%止めることはできないと思います。

少なくなる子もいれば、全くなくならい犬もいます。

犬にも個性があるため、去勢をすれば必ず落ち着いた子になるとは限らないです。

去勢手術のデメリット

麻酔のリスク

100%安全な手術は残念ですが、ありません。

なぜかというと、動物の場合ほとんどのケースで全身麻酔が必要だからです。

去勢手術の麻酔時間は30〜40分くらいです。

実際にメスを入れるまでに、周辺の毛刈りや、消毒があり、手術が終わってもすぐに目覚めるわけではないので、

手術時間以上に準備と、目が覚めるまでに時間がかかってしまいます。

ですが、去勢手術の麻酔時間は、獣医の手術の中で最も短いと思われます。

麻酔のリスクに関しては、きちんとした研究データがあります。

健康な犬の麻酔による死亡事故の割合は0.05%

イギリスのデータですが、98036頭の犬の麻酔データから得られた値です。健康な犬に麻酔をかけた場合、1849頭に1頭の割合で死亡事故が発生したとのことです。しかし、何らかの病気になっている犬の場合は、75頭に1頭の割合(1.33%)にまで死亡事故の発生が増加しています。

The risk of death: the confidential enquiry into perioperative small animal fatalities Vet Anaesth Analg. 2008 Sep;35(5):365-73

発生率を高いと考えるか、低いと考えるかは人によるところが大きいでしょうが、

このデータからは、若くて健康な時期にやっておくほうが、リスクは少なくなることは間違いなさそうですね。

「若くて健康なのにメスを入れるなんて」って思うかもしれないですが、

去勢をやるのであれば、健康なうちにしたほうがいいかもしれません。

術後の合併症のリスク

去勢術は、若い獣医師からベテランの獣医師まで、ほとんど手技が変わりません。

ベテランのほうが、時間は短いですが、血管をしばって切る、そして皮膚を縫うだけなので、

皮膚縫合がキレイかどうかは、変わってきますが、そこまで差は出ない手術です。

しかし、手術後の合併症はありえます。

1つ目は傷口を舐めてしまって、傷は開いたり感染を起こすことです。

傷口は3〜4日は痛くて、舐めたりはしないですが、それ以上の日数を経過すると糸が気になったり、痒くなってきて舐めたりします。

それを防ぐためにも、エリザベスカラーや術後服を着せて舐めないようにすることが大切です。

2つ目は縫合糸反応性肉芽腫(ほうごうしはんのうせいにくがしゅ)です。

近年はなくなってきていると思いますが、昔の獣医さんは血管をしばる糸を、絹(きぬ)糸で実施していました。

その糸に対して免疫が過剰に反応してしまい、糸の周囲に強い炎症反応を起こしてしまう合併症です。

現在は、三ヶ月ほどで溶ける糸、かつ免疫反応が起こりにくいように作られた縫合糸を使っているので、この合併症は少なくなっていると思います。ですが、どんな糸も異物ではありますので、全く発生しないとは言い切れません。

念の為、去勢を実施する場合は、縫合の糸に関して質問してみるといいと思います

でももし絹糸と言われたら、そこで去勢をするのはやめてください。

また現在の獣医療では、糸を使わないで、血管を処理するシーリングシステムというものがあり、

これを使えば、糸を用いることはなく電気の力を使って血管を処理してしまうので、この合併症は無くなります。

ミニチュアダックスフンドでの発生が多いので、飼い主様はシーリングシステムによる去勢術を実施している病院を、探してみるのも一つかもしれませんね。

ゴールデンレトリバー

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